ボクはネコの譲渡会で名刺をもらったボランティアのおばさまにメールを送った。
「こんにちは。トイレとゲージの用意が整いました。ボクの方はいつでも大丈夫です。ご都合の良い日にお越しください」
その翌週、ボランティアのおばさまが新入社員を連れて家にやって来た。おばさまは譲渡会で出会ったときのパンクバンドのライブのような激しさ、もしくはラーメン屋の大将が頭にタオルを巻いて腕組みしている情熱的な印象とは180度違い、化粧をほんのりして落ち着いた色の花柄ストールを巻いてドアの前に立っていた。
「遅くなってごめんなさい。私いつも道に迷っちゃうのよ。ほんとやーねー。オホホホホ」
玄関で軽い挨拶をして家にあがってもらい、前日購入したどら焼きとミカンを中央に置いたちゃぶ台を挟んでボクとおばさまが座る。
「あら、パティさんの姿が見えないけど。あっ、寝てるのね。じゃあ、さっそくジョージを」
そういうとカバンから洗濯ネットに入ったジョージを取り出して、何度か撫でると購入したばかりの社員寮(ゲージ)に入れた。
「だいたい1週間から10日で、前の家の記憶を忘れてここに慣れてくるから、あせらず面倒を見てあげてね。先住猫のパティさんにもペースがあるからあせっちゃダメよ」
ほかにも缶詰をよくあげると「ここの家は美味しいご飯をくれるから、いい家だと思うわよ」とか「子猫はご飯と遊ぶことは我慢できないから安心して」など、おばさまのネコ知識をいろいろ教えてくれた。ボクはミカンの皮を剥きながら、うんうん頷きながら、譲渡会のときから気になっていた質問をおばさまにぶつけてみた。それはジョージの名前だ。おばさまの年齢であればジョージ山本の線もありそうだし、男性デュオ・ワムのジョージ・マイケルも考えられる。まさかの共和党、ジョージ・ブッシュの線も無きにしもあらず……。
「あの、すみません。どうして名前がジョージなんですか」
淹れたてのお茶をずーずー飲みながらおばさまが少し微笑んだ。
「もともとジョージは3兄弟だったの。上のお兄ちゃん2匹は、すぐに里親が決まったんだけど、なぜかジョージは最後まで決まらなくて。そのお兄ちゃんたちもみんな毛がフサフサでゴージャスな感じだから、ちょっと王子っぽかったのよ。それで長男アンドリュー、次男ウィリアム、三男ジョージにしたの。あっ、今はジョージだけど2、3日して家に慣れてきたら、好きな名前をつけても大丈夫よ」
まさかロイヤルファミリーから名前をつけていたとは……。ジョージくんが保護されたのは練馬区なので、練馬ブリテンのロイヤルファミリーか。この高貴な名前を聞くと、いまさら庶民的なネコ太郎やネコ吉といった名前をつけるのも何なので、このままジョージと呼ぶことにした。のちにこの名前でボクは悩むことになるのだ。